サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 9)命令
ばらまいてあるピットの感度を上げ、各国の気象衛星の記録にハッキングし、拾い上げたデータをメインマシンに放り込み、僕は必死で陽子の行方を探し続けている。奴のシップのサイン。陽子の髪飾りの信号。ほんのちょっとでもいいから‥‥。
僕は自然人たちが言う「神に祈る」気持ちを理解し始めていた。

今のところ地球の磁気圏内にはグランゲイザーと秩序維持省のシップと地球製の衛星以外の飛行物は見つかってない。だが少し前にどでかいフレアが発生したため、地球にはかなり激しい磁気嵐が起きている。大気圏外から何かを探すには最悪のコンディションだ。
マリスが使った電送リングは本来は秩序維持省しか使えないはずの代物だが闇では出回ってる。飛距離はせいぜい数千Km。陽子の髪飾りの信号をわずかにキャッチできた高度1200Kmで、維持省は飛び石――つまり電送の中継器を発見した。残念ながらログを即刻破棄するタイプで、どこから来てどこに飛んだかは不明だ。中継を使ったという事は、奴の跳び先が遠くか、あるいは直進では行けない場所だったという事だ。宙には僕らの船がいた。ということは奴がまだ地球圏にいる可能性は高い。

探索しながら、ようやく身体と装備の修理が終わった頃、ヴォイスからコールが入った。
〈0079。照合が終了しました。貴方が送ってきた機器と同じものが、ボディの切り替え時に不審な点があって本部に転送されたスタージャッジのボディのうち、五体から発見されています〉
機器ってのは僕の膝に打ち込まれてた妨害信号を発信しまくる弾丸のことだ。マリスのナイフやらアーマーの燃えかすは維持省に持って行かれてしまったのだが、これだけは僕の体内に残っていた。
「その五ケース、切り替え前のボディの死因についてはどんな結論が出ていたんですか?」

僕らの自立的な思考と活動が止まった――つまり死んだ――時、僕らの身体はリプレースモードに入る。その時点で初めて使える予備エネルギーを使って、母船に対してボディが死んだことを知らせ、記憶を保ち、かつ周囲の状態を記録する。スタージャッジがリプレースモードに入ったり、母船と一定期間音信不通になったら、母船は最近の記憶のバックアップを新しいボディにインストールしてスタージャッジを復活させる。

生まれ変わったスタージャッジは前の身体を探し、可能な限りのデータを引き出したあと古いボディを消去するが、もし前のボディの"死因"に不審な点がある場合は、記憶やボディを本部に送ることになる。ちなみに古いボディの記憶はあくまでデータとしては参照するが新しいボディには取り込まない規定だ。つまり「死」の記憶を持っているスタージャッジは存在しない。

〈はっきりしたことは不明です。メモリは全て物理的に破壊されていました。事件の直前に正体不明の相手から攻撃を受けているという報告がシップに記録されていますが、どれも短時間です。たぶん反撃する間も報告する間もなく破壊されたのでしょう。うち2件では相手の映像もありますが、今回貴方が送ってきた映像のどれにも合致はしません〉
「他に手がかりは? スタージャッジ不在の期間にそれぞれの星でどんな事件が発生したんですか?」
〈ランダムです。まったく何も発生しなかったケースもあれば、違法な集団の侵入があったケースもある。ある一つのケースでは星の住人にとって甚大な被害が出ました。あと破壊されたボディの損傷が激しいのは共通項です。『銀の鏃』が十数発も見つかったボディもある。貴方の報告通り怨恨が理由とするなら話は通ります。ただリプレースされた本人に対して、その後はなんのアプローチが無い理由は謎です。そちらの状況は?〉

「何も、まだ‥‥」
〈いいでしょう。まあそう焦る必要もないでしょう〉
「‥‥え?」
〈本部は今般の事件について、スタージャッジ0079、貴方の出動を許可しません。貴方は当事者であり、犯人の性向から考えて貴方が出向くのは不適切です。秩序維持省も同様の見解です〉
「なぜです! マリスは地球人を人質にしている。彼女を助けることは僕の任務でしょう!?」
〈スタージャッジの任務に個人の命の保全は含まれません。被害者がHCE10-9を持っていたことで、貴方の関係者と勘違いされたことが幸運でした。犯人は我々への復讐のために多くの地球人を殺害する可能性もあったのに、それがたった一人の命で済むのです〉
「‥‥それは‥‥どういう‥‥?」

〈今後の作戦行動で被害者の救出は偶然に委ねられます。維持省は地球の安全を最優先にする中で、リューカー=ドゥーズの手がかりであるマリスの"記憶の確保"を目的に動きます。チャンスがあるならもちろん助けますが、あえて人質を救出することはしません。本部はその点について既に承認しました。貴方の報告を解析し、犯人のプロファイリングを行った結果、以上が最適な手段です〉

僕は頭が――全身も‥‥麻痺したようになっていた。ヴォイスの言っていることを理解するのが困難で‥‥彼女の言葉を頭の中で何回もリピートして、やっと意味を掴んだ。

「‥‥いやだ‥‥。そんなの‥‥受け入れられない‥‥」
〈なぜですか。指示に不適切、不合理と思われる点があるなら、指摘しなさい〉
「だって‥‥陽子を‥‥。そんな簡単に、人を‥‥人の命を、見捨てて、いいわけがない!」
〈その通りです。ただしその一人を助けるために他の多くの民間人の命を危険にさらすとなれば話は別です。前回もかなり際どい選択を貴方は行いましたが、種々の状況から本部は問責を見送りました。ですが今回は一切許容できません。犯人は手段を選ばない。カミオで行った虐殺行為を地球で行わない保証は何もありません〉

「奴の目的は僕です。他の地球人は関係ない。僕が行けばきっと‥‥」
〈それはあり得ません。犯人の目的は貴方の命ではない。それにマリスは貴方が出てくることを想定しているでしょう。ならばその裏をかいた方がいい。被害者は無いものとして扱います。わずかな犠牲でリスクが回避できるのですから、そうすべきです〉

「‥‥わずか、なんかじゃない‥‥。たった一人だけど‥‥わずかな犠牲なんかじゃないんだ!」
思わずコンソールをぶったたいていた。ヴォイスの答えはない。
「僕は陽子を助けたい。僕の全てを賭けて‥‥。他の被害は出しません。だから‥‥」
〈貴方は本部の命令に背くことはできません。ましてや自分自身を賭ける権利などありません。貴方の所有権は未接触惑星保護省にある。分かっているはずです〉


かろうじて自分の動きを抑えることができた。反動でばらばらになるかと思った。

落ち着け。
今は、落ち着け。
どんな処分を受けようが、僕は、僕の思う最善の手を取る。
たった一人の犠牲者も出さずに、この件を片付けるんだ‥‥。


「‥‥分かりました」
〈それでは次の指示があるまでグランゲイザーで待機するように〉
「はい」
〈それから0079。あなたの最近のバックアップが送られてこないのですが〉

そうだ。ちょうどバックアップをとらなきゃと思ってたとこだったんだ。そこにラバードたちが来て、陽子と出会い、色々起こって‥‥。

‥‥僕は陽子の記憶を媒体に閉じ込めたくなかった。僕の腕に‥‥僕の身体に残ってる陽子の記憶。何も知らない新しいボディが"形だけの記憶"を受け継ぐのが、なんとなくイヤで‥‥

〈トラブルの多い時こそ、頻繁にバックアップしておいて下さい。我々は貴方を失うことを望みません〉
所有している装備をムダにしたくないからですか?と聞き返したくなったが、僕はただ「はい」と答えた。なぜそんな無意味な質問が浮かんだのだろう。


通信を終えると、僕はヴォイスの言葉から必要なデータだけを取り出し、残りを頭から叩き出した。

マリスの本体があの小さな身体なのは間違いないようだ。それがまるで人間に見えるアーマー――スキンというべきか?――を着て、その上に戦闘用のアーマーを着てる。普通の生体が二重のアーマーを着こなすというのはちょっと考えにくいが、たぶん本体のかなりの部分が人造物なのだろう。
その上奴は維持省のキャストネットで縛られたまま、アーマーを分解してエネルギーに変えてた。つまり電磁波以外の情報伝達手段も持ってるってことだ。奴の持ってる全ての装備にジーナスの技術が使われてると思って間違いないだろう。

ヴォイスはスタージャッジたちは反撃する間もなく破壊されたと言ったが、本当にそうだろうか。いやな想像だが、マリスは僕の仲間を母船と通信できない状態にした上で、なぶり殺したんじゃないのか。だいたいいきなり破壊しようと思ったら『銀の鏃』なぞ使わない。自分の破損状況を見てよく判ったけれど、あれには破壊力がほとんど無い。ただ痛みの信号を出すだけなんだ。
スタージャッジが母船とのチャネルを確保できなくなることはあまり無い。僕らとピットと母船は多種多様な方法で伝送路を確保する。たとえば情報をパルス程度のパケットに分割して他人の使ってる電磁波にノイズのように忍び込ませることもできる。とはいえ強力な電磁ネットと分厚い絶縁体でくるまれて、すぐに絶縁体で出来た区画に放り込まれたら‥‥。

スタージャッジが殺された直後、事件が発生することもあれば発生しないこともあった。それはマリスが誰かの依頼で動いた場合とそうでない場合なのか。だとすると今回は依頼主の無いケースだろう。誰かの依頼だったら、僕をこうやって生かしておくはずがない。
だからこそチャンスがあると思えた。マリスは対外的な要素を一切気にせず、僕への憎しみだけで動く。だから陽子も今は無事のはずだ。もし陽子の命を奪うなら、僕の目の前でと考えるからだ。そしてその目的があるから僕のこともあっさりは殺さない。こんな方向で解法を考えたことはないけれど、陽子を助けるためにはどんな考えにもすがるし、どんな手段でも取る。

どんな結果になろうと、必ず陽子だけは‥‥


|2009.05.10 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
コメント









| /PAGES |
作品タイトル
選択内投稿一覧
| /PAGES |
最近のコメント
ライター
リンク
作品