サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 8)憎悪
「‥‥フォス‥‥?」
ヤツの笑いが凍り付いた。こいつにとっては大切な存在であったに違いない、ジーナスの母なるロボット‥‥。それを僕は、今、フリッター共々消滅させた。

「‥‥き、さま‥‥、スタージャッジ! 貴様、あの娘と一緒に、フォスをっ!?」
「ああ」
「バカなっ バカな‥‥バカなっ! なぜだ! なぜ!?」
「お前があのロボットに陽子を追わせるのはわかってた。あれを地表で狙うのは、リスクが高過ぎたのさ」

「あの娘を囮にしたのか!? 一緒に殺したのかっ!」
「僕にとれる最善の手を取っただけだ」
「違うっ 貴様はそんなスタージャッジじゃない! そんなことのできるスタージャッジじゃない! そんなスタージャッジのはずがない!」
「お前の見立て違いだ」

マリスは訳の分からない叫び声を上げ、ソードをめちゃくちゃに振り回しながら、地表に降りた僕に向かってきた。子供じみた未熟きわまりない動きだ。左のアームで刃を受け絡めて跳ね飛ばす。背後に回りながらヤツの左肩口、さっきジャンブルが食い込んだ亀裂の部分にアームのエッジを突き込んだ。
喚きながら半回転してこちらを向いた奴の左手先が、ぶわっとぶれた。左腕に仕込んであるらしい武器だ。自分のアーマーもろとも僕のアーマーを抉る。構わずマリスの頭部を横殴りし、掴み取っていたソードで奴の左腕を叩き切った。

マリスが悲鳴を上げて、まろび逃げようとした。その頭上からネットが降ってくる。そして二人の人物も。もう連絡は受けてる。秩序維持省の連中だ。母艦を圏外に置いて、小型ステルス機で駆けつけてくれたってわけだ。

マリスががくりと崩れた。維持省が使うキャストネットは電子機器を不能にする電磁ネットの一種。アーマーは自立してくれなくなったら重しを着てるに等しい。
多環境戦闘防護服に身を包んだ二人の隊員は彼の武装を解かせ、生身となった彼を拘束してネットでくるみ直した。顔を再度確認する。話しかけてもマリスは何も答えない。その顔からは完全に表情が消えていた。糸が切れた操り人形のようにされるがままになっている。

極端なマリスの変化に僕は戸惑っている。今のマリスには、何かを企んでいるような様子が一切感じられない。というか、意志そのものが消えてしまったようだ。陽子を囮にフォスを破壊したことが、そこまでショックだったのか。

二人のうちの一人がこっちに踏み出した。
「スタージャッジ0079。秩序維持省広域特殊犯罪課所属 認識番号13045だ。チェック・ディジットはA5P47G9。協力に感謝する」
ヴォイスの言ったナンバーと一致。僕はエマージェンシーモードを解除した。そのとたん忘れてた痛みが左膝から流れ込んできて、僕はあやうく座り込みそうになった。
「おい。やられてるのか? 大丈夫か?」
「ええ‥‥なんとか‥‥。それよりそいつを早く‥‥」

「きゃっ」
小さな悲鳴にぎょっとして振り返った。
「生命体デス。オソラクコノ星ノにんげんデス」
サポート・アンドロイドが何体か周囲に降りている。その中で森の中に踏み込んだ一人が、物陰に向かって腕を伸ばしていた。

「大丈夫。警察の救護ロボットだよ。静かにしてれば何もしない」
急いで日本語で言う。陽子が腕を掴まれたまま、藪の中から出てきた。アンドロイドは彼女を腕で囲むようにして立ち止まった。逃がさないが保護もするって体勢だ。陽子は目をまん丸にしているが、僕に向かってわかったという風に頷いてくれた。

本当に余計なことをしてくれる。とはいえ彼らも未開惑星にできるだけ痕跡を残すまいとしているのだから、仕方がない。
「巻き込まれた住人は一人のようだな。処理は君に任せる」
「はい」

「スター‥‥ジャッジ」
マリスが僕の名を呼んだ。僕はマリスの顔を見たくなかった。そうだ。僕は陽子をフリッターに乗せなかった。彼女をマントで覆って飛び降り、そのまま森の中に隠した。隙を見て逃げるように言ったんだが、また僕を心配したのかもしれない。
「スタージャッジ!」
どうしようもなく目を向けると、マリスがにーっと笑っていた。青白い氷のような瞳。まるでスイッチでも入れたみたいに、彼の「意志」が目覚めている。僕は意味もなく不安になった。

黒いアーマーは地面に転がっている。マリス自身は頑丈な拘束ベルトとキャストネットで包まれてる。特殊犯罪課の腕利きが二人いる。どう考えても、こいつはもう世の中には出て来られないだろう。もういい。もうごめんだ。僕は陽子を連れてさっさと退散しよう。

僕はマリスから視線を引きはがし、維持省の隊員に言った。
「ここで起こった事はあとで全部送信します。頼むからそいつを早く地球から退去させて下さい。そいつの存在によって地球人の生命が危険に晒されています」
「わ‥‥」

ヒューッという甲高い音が響いた。転がった黒いアーマーを中心に光と熱が広がって、マリスと二人の隊員を包んだ。頭脳の奥まで焼き尽くしそうな白さの中で、一人立っていたマリスが、ぱくりと割れたように思った。強烈なエネルギーの余波で、センサーがほとんど役に立たない。とにかく陽子に向き直った。

「遅いよ」

地面に崩れたアンドロイド。
驚愕と恐怖で声も出ない陽子。
骨張った長い指で陽子の喉をわし掴みにし、その身体に腕を回している、モノ。
「動く、な。殺す、のは簡単だよ」

「‥‥マリス‥‥なのか‥‥?」
深海生物のような青白い素肌。手術跡のような引き攣れや、赤や黒の隆起が身体に何本もまとわりついている。細い脚と腕。その左手の先が、無い。
「ドク、ター以外で、本当のボク、を見たのは、君が初めてだよ」

マリスが何かをぷっと吐き出した。同時に陽子を突き飛ばす。陽子の頭上にリングが広がった。
「待てっ!」
伸ばした僕の手のすぐ先に壁が出来た。陽子が何か言おうとした瞬間、彼女を囲った円筒の内部がピカリと光った。大気の中に彼女を構成していた原子だけが散らばっている。

「貰ったよ」
耳障りなノイズだらけの声。振り返ると、老人のようにも胎児のようにも見える顔が歪み、震え、しゃっしゃっという音をあげていた。

「‥‥どこだ‥‥。陽子をどこへやったっっ!」
がむしゃらに掴みかかろうとしたが、マリスはくんと後ろに飛び、今度は自分のための電送リングを投げ上げた。
「またね、スタージャッジ」
マリスが残したのは、ただその言葉だけ。

焼け焦げた大地と、無残な二つの隊員の身体とマリスの抜け殻と、もう動かないアンドロイドと、主を失って動けない何体かのアンドロイドと‥‥

それらに囲まれて僕は、ただ拳を地面に叩き付けていた。

全く不合理に、何かを喚きながら。


|2009.02.28 Saturday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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