サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジII〜陽子〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジII 9) 神様お願い (END)
「陽ちゃん、忘れ物はないか?」
「大丈夫。それにおばあちゃん、あたしもう日本にいるんだし、またお正月もくるから」
「ああ、そうかそうか。そうだったの。じゃ、ガードマンさんもお元気で」
「はい。いろいろありがとうございました」

翌朝。まだ5時前ですが、アパートメントに帰るので慌ただしいです。日本ってほんとに道が混むから。
パパの帰国の飛行機が明日の朝じゃなきゃもうちょっとゆっくりしてられるのですが、パパのお仕事も忙しいので仕方ありません。おばあちゃんには早くからおみそ汁と可愛いおむすびを用意してくれて、美味しく頂きました。

じゃあ出発と立ち上がったところで、朝から静かだったおじいちゃんがパパの前に立ちふさがりました。少しもじもじしたあとで、意を決したように言います。
「あー‥‥。ミスタ・モロ・ジョーダン」
「はい?」
「その‥‥あんたがどうしてもと言うなら、その‥‥。花火を、作らんでもない‥‥」

パパが固まりました。口が何度かぱくぱくして、やっと言葉が出てきました。
「た、太堂さん‥‥本当ですか‥‥?」
「武士に二言はないわい。作るといったら作る!」

「‥‥あ、ありがとう、太堂さん! で、でもどうして急に‥‥?」
「うるさい。月子が望んでるっていったのはあんただろう! ‥‥わしだって、わかってたんだ、月子が、何を考えてたか‥‥あんたが‥‥どれだけ月子を思ってたか‥‥‥‥」

おじいちゃんがぷいっとそっぽを向いた隙に、おばあちゃんがVサインを送ってきたので、あたしも両手でVサインを作って返しました。やった♪ やったね♪

「ありがとう、太堂さん‥‥。私は本当に‥‥‥‥」
あ‥‥パパ‥‥。パパが泣いちゃった。本当に嬉しかったのね‥‥。

「馬鹿者! 男のくせに泣くな! いい年してみっともない!」
「‥‥すみません‥‥」
「それはそれとして、あとはそこの警備員だ!」

警備員って誰?と思ったら、おじいちゃん近づいたのはマゼランでした。
「あんたはずっと陽子の警備員でいるのかね?」
「え‥‥! あ、その‥‥」
「ああそうか。わしのバカ息子が依頼をしないとだめなんだな。こら、この若いのと来年もずっと契約しろ」

パパの口はまたあんぐりです。
「なっなぜいきなりこのうちゅ‥‥うつけ者が関係してくるんですかっ!?」
「昨日の夜、星についてこいつの言った感想を聞いてなかったのか? 今日日ここまでの動体視力と注意力と記憶力のある奴はめずらしい。ちょっと工房で‥‥」

あーあ。昨日の夜、誰もいない海岸で星を燃やして、マゼランほんとに楽しそうに見てたから。帰ってからおじいちゃんにどうだったって聞かれて、素直にしゃべっちゃったのよね‥‥。パパはもう必死です。
「駄目です! こいつはその、色々と問題が‥‥」
「何が駄目なんだ! これだけ若ければ寄り道してるヒマはあるだろう。ちょっと花火を作ってみる気はないか」

目を丸くしていたマゼランが、ふわっと笑って言いました。
「済みません。でも僕は来年は‥‥日本に居ないので‥‥」
「‥‥そうか‥‥」
がっかり顔のおじいちゃんに向かって、マゼランは手を差し出しました。
「でも‥‥そう言って頂けて嬉しかったです、太堂さん。どうもありがとう」
おじいちゃんはマゼランの手を握りました。
「礼を言われるスジアイはないが。とにかく陽子のことをよろしく頼む」
「はい」

マゼランの手を離したおじいちゃんは、今度はパパに向かって、ぎこちなく、でも自分から手を出しました。
「連絡を待ってる」
パパは嬉しそうにその手を握り返しました。おじいちゃんとパパが握手するの、初めてかもしれません。
「はい。近いうちに必ず。たぶんまたこちらに伺います」

あたしはいつも通りおばあちゃんにハグ。
「おばあちゃん、またね」
「はいはい。寂しくなったらいつでも電話しなさい」
おばあちゃんがあたしの耳元でこっそり言いました。
「ガードマンさん、海外に行ってしまうって、本当なのかい?」
「うん。でもだいじょうぶ。その時また考える。本当にありがとね」



車に乗り込んだあたしはおばあちゃん達の姿が見えなくなるまで手を振っていました。来年このお家に来た時、あたしはマゼランと一緒にはいないと思います。もしかしたらマゼランのこと、何も覚えてないかもしれない。そう思ったらちょっと悲しくなりましたが、あたしは決めたのです。

「パパ、良かったね」
隣のパパの手を握ったらパパは無言で頷きました。パパの願いは叶ったので、帰ったらあたしのお願いも話さなきゃ。マゼランと三ヶ月だけお友達でいますって。今言うと帰りの車の中が大変なことになっちゃいますから。

大きな富士山を見ながら、どんな風に言おうかなぁとか考えていたら瞼が重くなってきました。昨日は夕方にお昼寝しちゃったし、マゼランとあんな話もしたし、夜はよく眠れなかったの。

「君も少し眠ったら?」
静かなマゼランの声に隣を見たら、パパがすうすうと寝息をたててました。あたしは小声で言いました。
「ごめんね、マゼラン、昨日、あんなに大変だったのに、また運転してもらっちゃって」
「平気だよ。こんなのごく普通のことで‥‥」

言葉が途切れたのでちょっと姿勢を変えてルームミラーを見たら、マゼランは微笑んでいるようでした。
「どうしたの、マゼラン?」
「いや。やっぱり君と一緒に居るのは、いいな」

あたしは身を乗り出してマゼランの肩に頬ずりし、マゼランはハンドルからちょっとだけ片手を放してあたしの髪を撫でました。

この一瞬一瞬に。マゼランから貰ってる幸せと同じだけ、マゼランに幸せをあげられますように。
その先にあることを怖がらずにいられますように。

車の振動に埋もれるように眠りにつきながら、あたしはそう神様にお願いしてました。

 (おしまい)

|2007.04.01 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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