サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ』 原作・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ 10) 孤独の終焉(END)
「わあっ!?」
薄暗い倉庫の中央。夕日を思わせる赤みがかったライトの中、浮かび上がったのは例のアミューズメント・プランツの一つだった。ランダムな形状は確かに人造物ではない。これは「木」だ。だけど幹の上の方、枝分かれしている部分が球体関節のようになっていて、そこから上がぐるり、ぐるり、とゆっくり旋回している。あちこちにカボチャを思わせる大きな実がついていた。

「すごい! すごーいっ」
陽子はもう木の幹に手を回してる。
「よーしっ」
「あっ 陽子! だめだ、登っちゃだめだよ!」
今にも幹に足をかけようとした陽子を慌てて止めた。
「どうして?」
「それは地球の木じゃない。どんな危険があるかわからないだろ?」
「‥‥でも、素敵な夢の木に見えるよ‥‥」

そうだね。確かに夢の木だ。でも‥‥

スタージャッジの任務と切っても切り離せないジレンマ。この広大な宇宙の様々な知識や技術。それがあればこの星の重大な問題すらすぐに解決するだろう。ただし、極めて局所的に。
だからこそ自分たちの足でそこまで行かなければ‥‥。
「夢の木は、君たち地球人が作らなきゃ。君たちから探しに行かなきゃ。ね?」

「‥‥うん‥‥」
頷いて幹から手は離したものの、陽子は俯いてしまい、僕はちょっと寂しくなる。その肩をぽんぽんと叩いて向きを変えさせたのは親父さんだった。
「あいつの言う通りだ。夢は自分の力でたどり着かんと、色褪せる」

ガツンという音がしてスライサーの飛ぶ音が止まった。シャッターが押し上げられ、フラーメ十数体が飛び込んでくる。
僕は少し飛び出し、手前にいた雌のフラーメの槍を掴むと、相手を思い切り振り飛ばした。遠くの壁まで吹っ飛んでべしゃりと叩きつけられたところに、そいつの槍を投げつける。頭のすぐ脇に槍が深々と突き刺さったのを見た"ウミウシ"フラーメは、震え上がったあげくに絞ったタオルのような形になってしまった。

「僕を怒らせるな! 本気で死にたいか!」
僕は今まで彼らに対してはかなり手加減してた。だからこの乱暴にはびっくりしたらしい。怯えて引いたフラーメ達が入り口のあたりにごしゃっと集まる。それを突き飛ばすように、ラバードが入ってきた。
「ええい! ひるむな!」

困ったフラーメの一人が槍を投げた。親父さんと陽子の上に被さるようにして屈ませる。槍がどすり、と木の幹に刺さった。
「後ろへ!」
親父さんと陽子を押しやるように木の後ろに回り込んだとたん、ラバードの悲鳴と怒声とフラーメの泣き声が入り交じった。たぶん頭を思いっきり殴られたんだろう。もちろん後続の槍は飛んでこない。

「はは‥‥。この木をよほど傷つけたくないんだな。ここにいれば少しは安全そうですよ」
「なに? この木はあの女ボスにとって大事なものなのか?」
親父さんが聞いてくる。
「はい。苦労して作った試作品なんだそうです」
「馬鹿か、お前は。じゃあ話は簡単じゃないか」
「え?」

親父さんが懐から銃を出した。陰から飛び出すと木に向かって銃を構えて怒鳴った。
「こちらの要求を呑まんと、この木に火をつける! そう言え、宇宙人!」

げ! 親父さん、なんて卑怯なことを思いつくんだ。さすが、自然人!‥‥って感心してる場合じゃない。
「ラバード。僕らの安全を確保しないとアミューズメント・プランツを燃やしちまうぞ!」
「くっそぉおお! スタージャッジ! 卑怯だぞ!!」
「どっちがだ! とにかくさっさと地球から退去するんだ!」
「ええい! もったいないが仕方ない! そのツリーは捨てる! フラーメ、ツリーを傷つけても怒らん! 怒らんから、行けっ」

あっ 想定外! どうしよう‥‥。ええと、ええと‥‥そうだっ!
「待て、ラバード! このツリーの特許の問題だがっ!」
「なに!?」
「昨日採取したアミューズメント・プランツの芽はもう本部に送ってあって、綿密な調査中だ。で、今のまま、あんたが侵略法違反とスタージャッジの任務妨害を続けると、この植物のノウハウ、全宇宙向け無料公開技術になっちまうが、いいか?」
「な、なんだとーっ!」

「カミオの連中もリーライ人も商売になるから協力してくれたんだよな?」
「何が言いたい!!」
「該当の技術が途上星の侵略に使用された場合で、著作権者がその犯罪に関わっていた場合、権利は消滅するんだよ。でも、あんたがおとなしく退去してくれれば、僕も考え直す」
「き、脅迫する気か、貴様!!」
「まだあんたは具体的な被害を及ぼしてないし、今すぐ退去するならあの芽、僕の一言ですぐに本部から返してもらえるけど、どうする?」
「きっ貴様という奴は〜〜! この卑怯者! おたんこなす!」

き〜っという書き文字でもしたくなる様子で、ラバードは頭をかきむしっている。陽子と親父さんはびっくりしてそれを見つめていた。
「おばさん、どうしちゃったの?」
お、おば‥‥。僕は思わず吹き出してしまった。
「悪いことすると、あの木の特許の権利が無くなるよって言ったんだ」
「それはむごいことを! お前には寛容というものはないのか、寛容は!」
んなこと言ったって! 親父さんだって、木を燃やすって言ったじゃないですか!

「で、どうするんだい、ラバード」
「‥‥‥‥‥‥」
「なあ、早くしないと朝になっちゃうぜ」
「‥‥‥‥わかった。撤収する」
「よかった〜。わかってくれたか!」
「そのかわり、芽をすぐ返せよ」
「ああ。この基地が地球の空域から出たことを確認したらな」
「くっそぉおお、偉そうに! 覚えてろ!」
「何言ってんだ。お互い忘れたいことだって忘れられないじゃないか」
「‥‥まあ、そうか‥‥」

振り返ると親父さんと陽子はゆっくりと旋回する不思議な木をじっと見上げていた。
「夢の木だよね、やっぱり」
「そうだな」

この木はもっと大きくなるんだろうか。あの実に陽子と乗りこんで、のんびりぐるぐる回ってたらさぞかし素敵な気分だろうな‥‥。

ふとそんなことを考えてる自分に気づいて、僕はちょっと驚いていた。

 * * *

「お、あの海岸ならちょうどいいかな。誰もいないし‥‥」
「どこがだ? 何にも見えないぞ」
「僕の目、親父さん達とちょっと違ってるんですよ。大丈夫。任せといて下さい」
「お前に任せると、ろくなことがないだろーが!」
「えー、もう終わり? もうちょっと乗ってたいよ〜」
「だーめ! それよりちゃんと座ってて。着陸するよ」

ラバードから小さな飛行艇を貰い受けた僕は、陽子達と共に地上に戻ってきた。流石に生身の人間を二人抱えてあの高さから飛び降りるわけにはいかない。着陸したのは岩場に囲まれた小さな砂浜。なんの照明も無いから地球人的にはかなり暗い。それでも東の空はうっすらと明るくなってきている。

陽子と親父さんを降ろしてから操縦席に戻ると、飛行艇を海上百mほどの位置にホバリングさせた。この位置を正確にグランゲイザーに伝えなければならない。再度エマージェンシーモードになって陽子達のいる場所まで舞い戻った。

「あ、マゼラン、また変身したの? この姿もかっこいいよね 」
陽子が防護マントの留め具のあたりを撫で、嬉しそうに頬ずりする。なんだかくすぐったいような感じがした。
「変身っていうか単にアーマーを着てるだけなんだけどね。それより飛行艇を始末しないといけないから‥‥」
「始末? 爆破でもするのか?」
「はい。地球外のものですからここに置いておくわけにも‥‥。ラバードはいらないって言ってたし」
「いやはや。お堅いことだ」
僕は片膝をつくと防護マントを大きく広げた。
「二人ともちょっとこの影に入っててください。エネルギー波が少し来ます」
陽子が目を輝かせ、僕の立て膝に抱きつくようにして座り込む。親父さんも不機嫌そうにそれでも影に入ってきた。僕は小さく呟く。
「ヴァニッシュ」

一瞬の眩い光。だがすぐに薄闇に戻る。飛んでくる破片すら無い。密度変化とわずかな熱の波動が届いただけ。グランゲイザーの誇る驚異の主砲だ。衛星軌道の高度から地表の1点を正確に撃てる。計算しつくされた高レベルのエネルギー線で、特に今のように分かり切ったターゲットの場合は、周囲に大きな影響を与えずにそれを消滅させることができる。

「終わりました」
僕の声に顔を上げた親父さんは、さっきまで大きなシルエットのあった空間を仰ぎ見てひゅーっと口笛を吹いた。
「一瞬で、影も形も無し‥‥か。こんなすごい武器を持っていながら、どうして使わなかったんだ?」
「これはどっちかっていうと後始末用で‥‥。基本的には壊したり傷つけたり、あんまりしたくないんですよ。大人しく退去してもらえれば、それに越したことはないんです」

僕は立ち上がり、二人から数歩離れた。
「クラッド・オフ」
武装を解いて向き直る。これで一応任務完了。二人も無事‥‥。

そこでふと気づいた。親父さんの上着を羽織っている陽子に近づき、その上腕にそっと触れる。ラバードにさらわれた時にピンクの上着を無くしちゃったそうで、その代わりも考えてあげなきゃ。
「ねえ、君、これ‥‥。この包帯、もしかして‥‥」
「あの髪の長いおばさんが巻いてくれたのよ」
「えっ‥‥?」
「マゼランが白いので包まれちゃった時ね。おばさんはすぐ髪をほどいてくれたんだけど、たくさんすりむいちゃってて‥‥。気づいたおばさんがびっくりして、これ巻いてくれたの」
「‥‥ラバードが、そんなことを‥‥」
陽子がこっくり頷くと、自分で自分の両腕にそっと触れた。

「だからあたし、マゼランについて行けたんだと思う。でなかったら怖くて円盤乗れなかったかも‥‥」
陽子はちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべて俯き、瞳だけで僕を見上げた。
「ごめんね」
「謝ることなんて、なんにもないだろ? 本当はあんな危ないこと、しない方が‥‥」

もし、陽子が来てくれなかったら、どうなってたろう。たぶん僕のこの身体はあの基地で終わりを迎えていたはずだ。輝くようなこの子との記憶と共に。

胸のあたりが何かで一杯になった気がした。でも決して不快じゃなくて‥‥。陽子からのHCE10-9の回収はまだしばらくかかるし、それは大変なことのはずなのに、なんだか無性に嬉しいような。これがラバードが言ってた、惚れてる、つまり、好きということなのかどうかが、僕にはまだよくわからないのだけど。

「ありがとう、陽子」
手を伸ばして陽子の髪に触れた。陽子が顔を上げてにっこりと微笑む。その笑みはもうすぐこの世を照らす朝の光よりずっと眩しい。

と、いきなり僕の眼前に銃が突き出された。
「おっとそこまでだ。娘から離れてもらおうか」
僕は陽子から一歩離れて両手をあげた。
「お、親父さん、そんなもの持ち出さなくたって‥‥」
アミューズメント・プランツを燃やすって言ってた銃だ。

あれ? でもぜんぜんエネルギー反応がないぞ。金属反応すらないけど、なに、これ?
「お前のような奴はこうしてやる!」
「わっ」
僕の顔にいきなり冷たい液体が降りかかってた。

「もおっ パパ! ほんとにかけることないでしょっ」
目をぱちくりした僕の顔を陽子がハンカチで拭ってくれる。
「なん‥‥?」
「ウォーターガンよ。遊園地で買ったのね」
「さすがパワーレンジャーの祖国。よくできとる」

これでラバードを脅したってのか。もう、参っちゃうな。

「よーし、帰るぞ、陽子」
親父さんが陽子の右手を引っ張った。
「帰るって、だって、ここどこなの?」
「知らん。早く案内しろ、宇宙人」
「はいはい」
陽子の左側に歩み寄った。親父さんが何か言いたそうにしたが、陽子が右手で親父さん、左手で僕の腕をしっかり捕まえて放さない。

「そういえばね! あの子!」
歩き出しながら、陽子が言う。
「どの子だ」
と親父さん。
「遊園地のあの子よ、あの小さな犬!」
「ああ、そっちか。あの六本足の奴かと思ったぞ」
「もーっっ あの怖い子はもういいよ〜。あの子犬ね、飼い主の人に会えたのよ。人混みではぐれちゃって、向こうも心配して探してたんだって。すっごく喜ばれちゃった!」
「それは良かったね」
と僕。うん、と答えた陽子はとても嬉しそうだった。

僕もとても感謝してると伝えたかった。君がそばにいてくれて、僕は‥‥‥‥。
なんと言ったらいいのだろう。この気持ちを伝える方法を、僕は知りたい。

まだ地平線に潜ったままの太陽の光が、空に淡く映り始めてる。たまには始発の電車など使って帰るのも悪く無いだろう。

トラブルと不思議な安らぎを持って僕の前に現れた二人の地球人と連れだって、僕は小さな浜辺を後にした。2000年の孤独に浸み込み始めた、確かな温もりを感じながら‥‥。

(おしまい)

|2006.10.04 Wednesday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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