サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 9)
あたしはマゼランの手をどけて、不思議なカプセルの方に一歩進みました。
「いいです。ライプライト博士。どうすればいいんですか?」
ライプ博士が言います。
〈服を全部脱いで、翻訳ペンダントやマスクもとって、開いてるほうのカプセルに入ってください。入ったら目をしっかり閉じて、手と足を少し開いて身体から離して待っててくださいね〉

そのときは身体変えるんだから服を脱いで当然なんだと妙に納得してたのです。マゼランはその‥‥あたしの身体‥‥知ってますし‥‥お二人は地球人じゃないし‥‥。
で、まずペンダントとマスクを取りました。今日は酸素は大丈夫でマスクは使ってなかったんですけど、とったとたんに息が荒くなってきて‥‥。でもうっかり歯を合わせるとカチカチいうし‥‥。心臓もほかの人に聞こえそう‥‥。両手を握って左胸を抑えて、それから胸のリボンをほどいて、スカートも‥‥アンダーウェアまで全部脱ぎました。

左手側のカプセルは回転ドアみたいに開いていて、上に浮き上がらないように注意して歩いて、床よりちょっと高くなってるカプセルの中に入りました。すると背中でしゅっと音がして、閉じ込められたのです。

狭い。息が苦しくなるみたい。次なんだっけ。そうだ。目をしっかり閉じて、両手と両足を少し開いて‥‥。そうしたらいきなり足の下が無くなって、悲鳴をあげそうになりましたが、ぽん、という音がしてカプセルの中が柔らかいパッキングみたいなもので埋まったんです。身体が動かないようにしてるの? ‥‥ちょっと‥‥怖い‥‥‥‥。

「陽子、終わったって! どういうことだいったい? 目を開けて、出ていいって!〉
いきなりマゼランの声が聞こえました。うそ。もう終わったの? あ、麻酔が覚めたとこ? ぜんぜん判らなかった。それに出ろって言われても、パッキングがぎゅうぎゅう詰めで‥‥。

わたわたしてたらパッキングごとカプセルの外に引っ張り出されました。
「陽子!」
あたしを支えてくれてるのはマゼラン。でもマゼランもわけのわからないって顔をしてます。え、やだ、マゼランがそんな顔になるほど姿が変わってる? でも‥あたし、入ったカプセルから出た‥‥だけ?

「陽子‥‥。見てごらん、君の姿‥‥‥!」
あたしをきちんと立たせて翻訳ペンダントをかけてくれながら、マゼランがそう言いました。見るとあたしの周り、ふわふわで真っ白で‥‥なんてきれいなパッキング材‥‥
「鏡、見てごらん」
そういって左側を示したマゼランはもう完全に微笑んでいます。大きな鏡の中‥‥真っ白なドレスを着たあたしが映ってました。上半身はサテンみたいに艶のある生地でレースとも羽ともつかないフリルがたくさん。ウエストは細く絞ってあるのに、スカートは透けるような生地が何重にもふわふわ膨らんでます。髪にも羽根のようなふわふわの飾り。ヴェールは無いんですが、肩から淡いシルバーブルーの艶のある布地が背中に長く伸びて、肩には赤い飾り。マゼランのマントと似たモチーフになっています。
「‥‥これ‥‥。ウェディング・ドレス‥‥?」

〈貴女の惑星ではパートナーと結ばれる時、白いドレスを着るんでしょう? 資料だけでデザインしたけど、良かったわ。よく似合ってる!〉
〈愛しい妻よ。お前の選択は常に正しい。なんとも素晴らしくも可愛らしいじゃないか!〉
離脱してしまったライト博士がテーブルの上で手を叩いています。

「あの‥‥。身体を変えるって‥‥いうのは‥‥」
〈ちょっと君の覚悟を試させてもらっただけじゃよ。まあ受けてくれるとは思ったが。あっちのは3次元アウターで出力して、ばれないように金属の欠片を入れたただの人形〉
〈博士!!〉
大声出したのはマゼランで、あたしはもう、言葉もありません。
〈驚かせてすみませんでしたね、ヨーコ。でもビメイダーと共に生きるなら、いつかこういう選択をする事もあるでしょう。この覚悟があると分かっているなら、万が一貴方の身体が酷い損傷を受けた場合、マゼランの選択肢も増えるということです〉


〈しかしだ。身体を変えるならもう少し成長してからのほうがいいと思うぞ、マゼラン〉
"ラスカル"ライト博士がマゼランにそう言います。
「なぜですか? や、やはり、身体にかかる負担が大きいと‥‥」

〈いやその、服を着てるときはわからなかったが、ヨーコの身体がな‥‥。お前やオーディが集めたデータによれば、あの惑星の女性というのは、胸や腰がこう、もう少し大きく、柔らかそうになるはず‥‥‥‥いててててて!!〉
〈貴方っ! その発言は尊敬できません!!!〉
ライプ博士にまたまた耳を引っ張られた博士は‥‥もう知りません! どーせあたしはチビで胸がないですよっ!! 友達と比べて密かに気にしてたのに、宇宙の人まで言わなくたっていいじゃない! ママが細くて小さい人で、似ちゃったのよ、あたしのせいじゃないのよ〜〜〜(泣)

〈いや、妻よ! あくまで学術的な見解で、いやらしい意味では‥‥〉
〈そうは思えません!〉
まだ言い合いしてるライプライト博士を見てハアッと大きなため息をついたマゼランが、あたしに向かってごめん、という風に両手を合わせます。あたしはもう恥ずかしくて、真っ赤な顔のまま俯いてしまいました。

と、マゼランの腕が背中から回ってきて、耳元で声がしました。
「すごく、きれいだ‥‥」
「‥‥ほんと‥‥?」
好きって言われたことは沢山ありますけど、きれいって言われたの初めてで‥‥。
「なんか、変な気持ちだ。‥‥君の所有権を主張したい気分。理不尽だ。君は自然人なのに‥‥」
「そう言われるの、なんか嬉しい」
「そうなの?」
「あたしのこと、すごく大事ってことだよね?」
「ああ」


〈ほーら、大成功だ〉
落ち着いたライト博士の声がして、見たら博士、ちゃんと奥さんに捕まって、定位置です。もう、本当に困った博士たち。
〈貴方たちに会いたいという人が到着する頃です。そのまま行っていいですよ〉
〈会いたい人‥‥?〉
マゼランがそう聞き直したところで、信号音がしてライプ博士が何か押して応えました。
〈どうぞ〉

部屋に入ってきたのはアタカマさんでした。
〈お客人をロビーに通しました〉
〈こちらも終わりましたよ。案内してあげてくださいな。終わったらまたここで。あ、夕食はルチルも呼んで一緒にお祝いにしましょう〉
〈はい。ルチルが張り切って用意していますよ。じゃあマゼラン、ヨーコ、こっちだ〉

マゼランがライプライト博士の前に進み出ました。
〈色々と本当にありがとうございました。博士〉
〈いやいや、私も嬉しかったよ〉
〈たまにはヨーコを連れて帰ってきてください〉
〈はい〉
マゼランがちょっと眩しそうに、ライプライト博士を見上げます。
〈その‥‥僕は今まで、ボディその他の修復や何か教えて頂いた時しか、博士にお礼を言った事がありませんでした。でも‥‥自分の経験を認識しなおすのは、まだ不思議な感じですが‥‥博士やオーディが僕をずっと大事に思ってくれてた事を、今日、初めて理解して‥‥。それをとても嬉しく感じました。僕をこの世に生み出し、ずっと見守っていて下さったことに心から感謝しています〉

ライプ博士の顔がふっと崩れ、右下の手でマゼランの腕を掴んで引き上げて抱き寄せます。ライト博士も、ぽんぽんとマゼランの肩を叩いて言いました。
〈"生きて"いけ。思うままに〉
〈はい〉

なんだかあたしまで泣きそうでした。これを親子のような‥‥と言ったら、それは地球人の押しつけなんでしょう。この誇らしくも満ち足りた関係に行き着いたのは、覚醒した一人のビメイダーと、それを愛情を持って作りあげた人達である。それが正しい表現だと思います。


|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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