サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 14)巨人
通路からの出入り口の近くにあった艦載機がいきなりスライドした。ぐしゃりとぶつかり潰れて出入り口が完全にふさがれる。その艦載機を押しやったものが、僕らの前で変形しはじめた。
「ロボットだったのか!?」
維持省の隊員達が驚愕の声を上げた。3台の艦載機のうち中央にあった全長20mぐらいの黒い小さな機体が、今や完全に人型となって立ち上がる。その腹部が開き、あの異形が現れた。
「あーあ。リプ、レース、モードで動ける、ス、タージャッジなんて初めて見た。最初から直、接やらなく、て良かったよ」

あの時はよく認識できなかったマリス本体の姿。身長は160センチぐらい。2本の手、2本の足。体の構成は地球人によく似ている。頭部が大きく肩から下が細いためバランスは子供のようだ。目はアザラシを思わせるように黒く大きく、顔は皺だらけ。身体全体はやや青みがかった石膏のよう。端子と思える赤や黒の帯状の隆起が身体のあちこちに走り、そこからケーブルとも触手ともつかないものが伸びてロボットとつながっている。首から大きめのメタルのようなものを下げていた。

「‥‥お前、スキンすら、遠隔操作できるのか?」
「もちろん。あれ、毎回、仕事に合わせてつ、くるんだ。コントローラーも入れられる、けど、ここまでしたの初めて。ったく、キミって、やんなっちゃう」


「マリス。そこから大人しく降りてこい。これ以上抵抗してもお前のためにならんぞ」
僕の前に踏み出してそう言った秩序維持省の指揮官に対して、マリスが身を乗り出した。
「あんたたちさ、人のジャマ、しないで欲しいんだけどな」
「なんだと?」
「せっかく、つ、かまえたス、タージャッジが逃げ出して、そっち行こうとしたら包囲す、るし、今だってさ」
不機嫌そうにそう言った白い顔が急に満面の笑みを見せた。
「ああ、でも。いいこと思いつ、いた。一つ、取引しない?」
「取引だと?」

「ボク、に、その地球人とス、タージャッジを頂戴。ボク、がその二人を殺し終えたら、つ、かまってあげる。聞きたいこと、何でも教えてあげる、よ」
思わず身構えた。この十名以上の人間が敵に回ったら‥‥!

だが肩越しにこちらを見やった指揮官は、ゴーグルの偏光を調整して僕に素顔をさらした。四ツ目のうち下の一対でぱちりとウインクをして見せると、またマリスに向き直った。
「そんな要求を呑む気は無い。お前が取引に使える材料は、あくまでお前の受ける報いの減刑だけだ」
「どうして? あんたにとってはす、ごく、いい取引だと思う、のに。だってビメイダーはただの"物"だろ?」

「確かにお前は"人"だな。己の運命の不幸な部分のみ煮詰め、恨みの対象を不当に拡張して、無関係な存在を殺めるなど、"自由人"にしかできないことだ。だが愛する者を守りたい一心で限界を超えた力を発揮した0079の行動も、十分に自由人の証だろう。はっきり言っておく。この二人は我々の協力者と保護対象だ」

〈‥‥信じて、いいのか? だって作戦では‥‥〉
安堵よりむしろ驚いてしまった僕は、共通回線にそう呟いていた。
〈現場は常に臨機応変だ。不快な思いもさせたろうが、勘弁しろ〉
指揮官が背中のままそう返してきた。

一方のマリスは呆れたように肩をすくめた。
「意外とバカだね。じゃ、仕方ない。まず、あんたらからだ。よく、見とけよ、ス、タージャッジ。キミが、どれだけの人間を巻き添えにす‥‥」

ずん、という音が響いて、奴のロボットの足元で爆発が起こった。維持省の隊員たちが抜け目なく爆弾を仕掛けていたのだ。だが。
「無駄だよ。ボク、のアーマー、そんなものじゃ壊れない!」
マリスがロボット、いや巨大アーマーに吸い込まれると同時に、巨人は周囲にいた隊員たちを蹴り払い、腕を振り下ろす。僕は陽子を抱えて飛び退いた。

隊員達は反重力ディスクに乗って動き回り、囮と攻撃を巧みに入れ替えて、関節部を狙って攻撃を加えている。だが強力なシールドが施されているようで、巨大アーマーの動きはほとんど変わらない。この大きさにして信じられないスピード。敵が大きい故に逃げ回れているが、このままでは‥‥。

「マゼラン、あの模様、もう少しで揃うの」
抱き上げていた陽子にそう言われてびっくりした。
「ハッチの鍵のことか? なぜわかった?」
「あの人のロケットのデザインなの。百合みたいな花。パパ達の写真を見せてくれたの」
あのメタルは家族の写真を入れたロケットか。僕がマリスのスキンとやりあってた間、陽子はずっとあの鍵を開けようとしてたんだ‥‥。陽子が僕の腕から滑り降りた。
「違ってるかもしれないけど、ピースの数もちょうど合うの。あたし、やってみる」

しばらく陽子を見つめて、僕は頷いた。体内のベース・クロックが異様な速さで時を刻み始めていた。髪飾りを差し出すと、陽子が嬉しそうにそれを受け取る。僕は維持省の回線に言った。
「二名こっちに回して、陽子を手伝ってくれ。艦載機用のハッチを開けられるかもしれない」

少女の両肩に手を置いて、その顔をもう一度覗き込んだ。乱れた髪。涙と塵で汚れた頬。痛みと不安に震える吐息。それでもそれらを押し隠して、なおまっすぐに僕を見る黒い瞳‥‥。
一瞬で、陽子の全てが僕の中に焼き付いていく。
「ごめん。身体、辛いだろうけど、君に頼るしかない。俺たち全員の為に」
「うん」
「君のことは必ず助ける。俺を‥‥」
「信じてる。何があっても」

「0079」
指揮官自らともう一人がやってきた。
「この子の翻訳機は片道だ。陽子の動作を見て理解してくれ。マリスは俺に任せろ」
「何をバカな。その身体で、戦う気か?」
「‥‥熱いんだ‥‥。身体が、熱くて‥‥負ける気がしない。陽子を頼む」
僕は陽子を指揮官に押しやり、飛び出した。
「マリス! こっちだ!」

隊員達を振り飛ばしていた黒い巨大アーマーがこちらに向き直る。
「俺を動けなくするんじゃなかったのか、マリス!」
「ス、タージャッジ!」
「来い! 俺が相手になってやる!」
「この生意気なビメイダーが!」

だっと飛び出した。黒い手が伸びてくる。それをかわして奴の足の間を駆け抜ける。
「クラッディング!」
一回転して起き上がった時にはもう、手になじみかけてるマリスのソードを握っていた。ハッチが開けば、すぐ外まで来てるカノンが使える。それまではこいつを使わせてもらう!
まだこっちに背中が向いている。駆け上がって右肩のセンサー・アンテナを叩き切り、関節部にソードを突き入れる。電磁シールドの抵抗は激しいが、力負けしなけりゃいい話。左手が伸びてきたので離脱しようとした僕の足を、なんと右手が掴む。関節部の可動域が普通じゃない!

奴は僕の身体を床に叩きつけた。普段だったら破損による危険信号の奔流と物理的な衝撃で動きが止まったはずだ。だが危険信号がすでに無く、呆れるほどにクロックアップした今の僕は、体中に広がる衝撃と振動と反動の全てが予測できる。三回目に振り降ろされた時、奴の手の中で僕の身体が鉛直になった瞬間、アーマーを解除し、するりと奴の拳から抜け出した。遠心力も利用して奴の左肩に飛び乗り、左肩関節にソードを突き立てて離脱した。

「それ、貸してくれ!」
再びアーマーに身を包んだ僕は、唖然と上を見上げてた維持省の隊員の持っていたでかいマシンを奪った。ハッチの突破に使うマシンだ。飛び上がり、重量のある"チェーンソー"みたいな物騒なそれを巨人の頭部のセンサーとおぼしきあたりに叩きつける。破損箇所から配線のようなものが見えた。"チェーンソー"の配線をぶち切って、金属の刃に高電流が直接流れるようにした状態で、その傷口から突っ込んで飛び降りた。
「ス、タージャッジ、よく、も!」
巨人がマシンをはね飛ばす。でもまだ手を振り回してるってことは、ダメージにはなったんだろう。

「マゼラン!」
高い声が通る。見ると床の一部がゆっくりと下がっていく。
「陽子!」
やってくれた! なんて子だ。なんて‥‥!

ああ、でも。
こうやって、何度助けられた? ラバードの基地でも、ポーチャーコンビの船でも‥‥。
小さくて弱いはずの少女の底知れぬ強さ。その強さが、ただ僕のために発揮されてることを、僕は歓喜と誇りを持って受け入れていた。心の中にある思いをただ素直に認めれば良かったんだ。ビメイダーとか人とか、生まれた星が異なるとかずっと一緒にはいられないとかそんな事、この思いの大きさに比べたら、有効桁数未満の誤差なのだから‥‥。


「鍵を、解いたのか!? どうやって!」
「お前のロケットだ。陽子が覚えてた」
「そんなはず、ない! 見せたのはほんのちょっとだ。電送のすぐ、あとで、弱って、怯えきってた!」
「お前がそれを見せたから、陽子は平静に戻れたんだ。お前の家族を見て、お前の、家族を思う心に共感した。お前にとってそのロケットがどれだけ大事な物なのかも‥‥。お前の思いを心に刻んだ。だから思い出せたんだ」
「でもお姉ちゃんは、貴様を選んだじゃないか! ボク、より、貴様を!」

「なら言ってみろ、お前自身が、どう陽子を愛したか!」
僕は巨大アーマーの胸部、マリスが消えたあたりに、刃を突きつける。
「愛するから、愛されるんだろう!? 憎めば、憎まれていく! お前が陽子の命を奪い、俺がお前を憎んだとして‥‥それでお前は幸せなのか!? 本当にそうなのか!? そうやって憎しみの連鎖を作って、それが何になるってんだ!」

「だ・ま・れ!」
巨大な両手が僕を追い回す。
「IDカノン!」
開き始めたハッチの隙間から、白い相棒が舞い込んできた。翼で巨人の腕を薙ぐが、わずかな傷をつけるばかり。でもジャンブルが手に入った。腰を支点にロッドを回し、鉄球を腕にぶち当てる。奴の足下に着地して今度は下脚を鉄球で殴りつけた。巨体がぐらりと傾いで、奥の方に倒れ込んだ。


|2013.02.11 Monday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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