サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 13)人形
「そこまでだ、スタージャッジ!」
廊下からわらわらと維持省の連中が飛び込んできた。
「マリスを殺すな! 命令だ!」

僕とマリスは多環境戦闘防護服を着用した六人の維持省隊員に囲まれた。半数の銃は床のマリスに、残りは僕に向いている。僕の正面にいた一人が銃を僕の喉元に合わせる。
「武装を解除しろ」
僕は隊員たちをぐるりと見回し、他の隊員とともに後方にいた少し派手な服装の人間に向かって言った。
「先にこいつをきちんと確保しろ。もう一度取り逃がしたら、俺はこいつを殺しかねない」
彼は頷いて、部下に合図を送った。僕に向いていた銃口がさがってマリスに向いたので、僕はマリスから足をどけて、少し離れた。

マリスは隊員たちに助け起こされるようにして上半身を起こした。その身体は改めて見るとひどい有様で‥‥自分の行為を見せつけられて、体内に合わない部品でも突っ込まれたような気分になる。でもマリスはされるがままになりながら、僕を見上げて言った。
「おめでとう、スタージャッジ」
「どういう意味だ?」
「キミの勝ちだ。その子にはもう手は出さない」


どこまで本気だ? まだ、何かあるのか? だが維持省はキャストネットに加えて弾性波発生装置まで持ってきてマリスに巻きつけてる。いくらなんでももう大丈夫だろう。僕は緊急形態を解除した。高出力を続けた頭も身体も暴走寸前で、膝をついて荒く息をついた。
「マゼラン」
壁のそばにいた陽子がこっちに来ようとしてる。笑って手をあげてそれを押しとどめ、立ち上がろうとしたら、眼前に二丁の長銃が突きつけられた。。

「まて、0079。今回の命令違反はビメイダーの犯したものとしては重大だ」
二人の維持省の隊員がこっちに回ってきてた。
「陽子を助けるには仕方なかった。マリスが捕まったんだからいいだろう?」
「さっきマリスを殺すと言ったな。自然人にあそこまでの攻撃を加えられるビメイダーなど危険すぎる。お前を逮捕して調整する」
かっとして手を上げかけたその時。

「やめて! やめて、お願い!」
背の高い隊員たちの間をすり抜けてきた陽子が、銃から僕をかばうように割って入ってきた。
「あたしを助けるためだったの! マゼランは悪くないの! おねが・・・」
そこまで叫んで、陽子が胸を押さえ込んだ。抱きとめると引き攣れたように震えている。コロイドシートに多少の鎮痛治癒効果はあれど、こんな寄り道をしてる時間は無いんだ。こいつらはなぜそれがわからない!
本気でこの二人を殴り飛ばしたくなっていたが、僕が"警察"に乱暴したら陽子にまたストレスをかけてしまう。もうこれ以上、陽子の身体も心も傷つけたくなかった。

僕は深呼吸して自分に落ち着けといい聞かせ、陽子の髪飾りを取った。気づいた陽子がいやいやをするように首を振り、髪飾りに手を伸ばす。それを押し戻して言った。
「もうこれはいらないよ。全部終わったんだ。こっちは大丈夫、わかってもらえるから」
正直に話して通用しないなら、こいつらを蹴散らすだけだ。でもこれから僕が話すことを陽子に知られてはならない。

隊員たちは流石に押し黙っていた。言葉が通じなくても、陽子の必死さも何を言いたいのかもわかったんだと思う。陽子を抱きしめたまま彼らのゴーグルを見上げる。
「この子はひどい傷を負ってる。早く母船で治療したい。だから行かせてくれ。僕の逮捕も調整も不要だ。僕はたぶんリプレースモードに入ってる。この子と会ってからのバックアップもない。あとはもう消滅するだけだ。あんたたちの心配の種は無くなる」
「そんなバカな。リプレースモードのスタージャッジが動けるはずは無い」

「僕もそうは思う。昔一度"死んだ"時もこんなことは起こってなかった」
スタージャッジのボディが死を迎える時、その記憶を維持し、最後の記録を取り、己の場所を示す信号を母艦に対して送るために特別なエネルギーが僕らの体内には置かれてる。それは地球の車のエアバッグみたいに、ボディが廃棄されること前提の最後の手段だし、なおかつ意識あるままにそれを使う方法は無い。僕らはそう作られているはずだ。でも‥‥。
「僕と陽子が持っていたHCE10-9は全てマリスに奪われた。予備も持ってない。それでもこうして動ける理由が他にはない」

「その身体の破損状況を見れば、君が極限状態に置かれたことはわかる」
いつのまにか指揮官が近寄ってきていた。
「どうしてそうなった?」
「HCE10-9を奪われて一切パワーが無くなった。でもこのままでは陽子が死ぬと思ったら、いきなり動けるようになった」
「その娘を守りたい一心で、そんなことになったのか」
「僕にもよくわからない。たださっきまで驚くような高出力が出ていて、リプレースモードに思い当たった」

指揮官が部下の二人を下がらせると僕に手を伸ばした。少しためらいはあったが僕も右手を出したら、彼は僕の手を引っ張って立ち上がらせてくれた。
「君が送ってきたモニターはずっと確認していた。君の頭脳が異常をきたしているとは私には思えない。行くがいい。遠隔砲はすでに破壊済みだ。右舷のハッチから出られる。母船まで戻れるか?」
僕はほっと安堵の息をついた。
「戻れる。ありが‥‥」


「隊長。ターゲットが‥‥」
皆が振り返る。アーマーを剥ぎ取られたマリスが、上半身を起こしたまま、虚ろな表情でぶつぶつと何かをつぶやき続けている。
「おめでとう、スタージャッジ‥‥君の勝ちだ‥‥その子にはもう手は出さない‥‥おめでとう、スタージャッジ‥‥君の勝ちだ‥‥その子にはもう‥‥」

「どういうことだ? 狂ったのか?」
指揮官の問いに、マリスのそばにいた隊員が答えた。
「ずっと無言だったのですが、反応はしてたんです。でも急にこんなふうになってしまって‥‥」
「中身の確認は?」
「左脚切断部から見て何かのボディが入っているのは確かですが、スキンの除去の方法が不明です。我々が把握していた生体波が、スキンのものだった可能性も‥‥」

「おめでとう、スタージャッジ‥‥君の勝ちだ‥‥」
声が二重に聞こえた。もう一つの声が上のほうから。そこでマリスがかくん、と横倒しになった。まるで壊れた人形のように。

声だけが続く。嘲笑を含んで、いかにも楽しそうに‥‥‥‥。
「‥‥でも、その子の命は、ボク、がもらう‥‥」

「‥‥マリスだ‥‥。奴は、まだ、自由でいる‥‥」
そうつぶやきながら、僕は、半分のアーマーから見たマリスの顔を思い出していた。あのとき感じた小さなトゲのような違和感が、今、巨大な厄災に膨らんで、僕らの前に立ちはだかっていた。


|2013.02.03 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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